お知らせ

 

 校長   佐々木 進


 愛媛県立松山西中等教育学校のホームページをご覧いただき、ありがとうございます。
 本校の前身は、昭和49年に創立された愛媛県立松山西高等学校です。前年の昭和48年に起きた世界的な石油危機の影響によって開校当初はプレハブ校舎しかなく、生徒たちは、荒れた運動場を教職員と一緒に整地するなどしながら、「新しい学校を自分たちで創る」という「開拓者精神」を発揮しました。そして、雨が降ると、トタン屋根のプレハブ校舎がけたたましく鳴り始めるので、これに負けてはならないと教員の声が校舎の外にまで響き渡り、当時は、生徒と教職員が同様に、不自由な思いよりも新たな学校建設への熱気に包まれた毎日であったといいます。
 その後、生徒と教職員が力を合わせて創り上げた松山西高等学校の歴史と伝統を受け継ぎつつ、平成15年に愛媛県立松山西中学校が併設され、平成18年に、中予地域の県立学校で唯一中高一貫教育を行う、現在の愛媛県立松山西中等教育学校となりました。先述の、創立時に育まれた開拓者精神と、高い理想を求めて生徒と教職員が共に汗を流す「師弟同行」の精神は、今も学校のモットーとして様々な教育活動の中に息づいています。
 本校は、1学年4学級で前期課程3年間と後期課程3年間の計6年間を一貫して学ぶ中等教育学校です。「誠実・自学・創造」の校訓のもと、豊かな心と知性を身に付け、高い志を持って、未来を拓く若者を育成する、という教育方針の中で、生徒たちは1年生から6年生までの幅広い年齢集団の中で自分の「学び」を深め、高め合いながら、たくましく成長しています。授業や学校行事、部活動などを通して自らの夢や希望をかなえようと努力している生徒たちの輝きと伸びゆく力を、これからも教職員全員で守り支え続けてまいります。
 
  令和5年4月

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1年生集団宿泊研修結団式あいさつ

2024年5月9日 13時47分

 1年生は、5月9日(木)・10日(金)の二日間、国立大洲青少年交流の家で令和6年度集団宿泊研修を行います。出発に先立ち、本校体育館で結団式を実施し、つぎのような話をいたしました。

 皆さん、おはようございます。集団宿泊研修を心待ちにしていた人も多いでしょう。安全と健康に気をつけて、充実した2日間にしてください。始まりに当たり、この学校行事の目的を一緒に確認しましょう。それは、集団や班別による研修や作業、レクリエーションを通して大事なことを楽しみながら学び、身につけるということです。
 では、その「大事なこと」とは何だと思いますか。答えは、皆さんが持っている「研修のしおり」の1ページに載っています。そこに書かれている4つのことを、必ず読み返してください。
 1つ目は、「主体的に活動する」ということです。「主体的に」とは、自分自身の考えや判断に基づいてという意味です。もちろん、自分勝手にするということではなく、すべきことやしてはならないことを自ら考え、判断し、責任をもって行動するということです。
 2つ目は、「仲間と助け合い磨き合う」ということです。例えば、窓を布で磨くと、布糸で細かな汚れが削り取られて窓が輝くように、「磨く」とは摩擦(競争)によって、より良い状態にすることを言います。ですから、「磨き合う」は、「鍛え合う」と言い換えてもよいでしょう。 
 3つめは、「自己を見直す」ということです。集団生活を通して、自分自身の中でもっと伸ばしたり高めたりしたいことや、改善したいことを見つけることができれば、有意義な研修となります。
 4つ目は、「ねばり強くやり抜く心を育てる」ということです。困難なことがあっても、自分の力を信じ周りのみんなと力を合わせ、それを乗り越える努力をしてください。
 皆さんが、それら4つの「大事なこと」に挑戦しながら集団宿泊研修を楽しみ、元気に帰ってくることを私も楽しみにしています。

令和6年度PTA・育成会総会あいさつ

2024年5月6日 18時32分

 5月6日(月・振替休日)、本校体育館にて、令和6年度PTA・育成会総会を開催いたしました。連休中であり、しかも雨天での実施にもかかわらず、650名の保護者の皆様にご出席いただきました。心からお礼申し上げます。

 皆様こんにちは、校長の佐々木でございます。よろしくお願い申し上げます。平素から、本校の教育活動にご理解とご協力を賜り、まことにありがとうございます。また、本日はご多用のところ、しかも足元のお悪い中、PTA・育成会総会にご出席くださり重ねてお礼申し上げますとともに、お車での来校に関するお願いにご協力いただき感謝申し上げます。
 本校の校舎や体育館、運動場では、普段、勉強や部活動に熱心に取り組む生徒たちの明るいあいさつや、元気な声が響いていますが、この連休の間は静かな時間が流れていました。考査発表中のため大会のある部以外は活動を休みにしており、後期生の中には朝から夕方まで、教室で静かに自習をする生徒が何人もいて、今すべきことを自覚し、それに専念する生徒の様子に感心いたしました。
 さて、本校は昨年度、創立50周年を迎え、皆様にご協力いただきながら記念式をはじめ様々な周年行事を行いました。改めて深くお礼申し上げます。本年度も周年期間と位置づけ、関連した行事を実施する予定ですので、引き続きお力添えを賜りますようお願い申し上げます。令和6年度は、重点努力目標を昨年度と同じく、「Ever Shining - 夢に向かって心と体を動かし、みんなを輝かせる人であれ -」と定め、現在、生徒924名と非常勤を含む教職員96名の計1,020名で教育活動を行っています。目標には、生徒一人ひとりが自分の夢を見付け、その実現のために心と体を動かして自ら輝き、周囲の者を輝かせる人でもあってほしい、という願いを込めています。加えて、そのために全生徒・教職員で守り続けようと呼びかけていることがあります。それは、○常に基礎基本に立ち返り、小さなことやさりげないことを大事にすること。○お互いの気持ちや言葉のキャッチボールに努め、言葉を大切にすること。○相手の身になり、相手の気持ちや状況を思いやることです。これらを実践して、校訓の誠実・自学・創造の精神を体現する生徒を育てて参ります。
 本校では県立学校振興計画に基づき、令和8年度の後期課程4年生から「国際コース」を設置いたします。確かな語学力やグローバルな視点、豊かな国際感覚、課題解決能力等を育成し、世界や地域で活躍する人を育てるための「コース」づくりを、学校外の方々にも協力いただいている準備員会を中心に、現在、進めております。校長として新コース設置をはじめ、本校をより魅力的な学校にするべく尽力して参ります。
 そして、教職員全員でこれからも、生徒の安全・安心に努め、生徒の様々な力を伸ばし、保護者の皆様の期待にお応えできる教育に一丸となって取り組んで参ります。その様子は学校ホームページにてもお伝えさせていただきますので、ご覧いただければ幸いです。今後とも、皆様のご理解とご協力を賜りますよう改めてお願い申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。本日は、よろしくお願いいたします。

第1回避難訓練の講評

2024年4月25日 20時05分

 4月25日(木)の6時限目に令和6年度第1回避難訓練を実施し、火災を想定した訓練と避難に関する学習を行いました。そして、生徒に次のような内容の話をいたしました。

 皆さん、去年のこの訓練で私が話したことを、今日、実行しましたか。大事なことなので、繰り返し伝えます。避難訓練において大切なことは、すべきことや、してはならないことを確認しながら行動するということです。
 火災避難の場合にすべきこと。○安全第一で、静かに落ち着いて早く逃げる。○その際に、もし可能であれば初期消火に努める。○逃げるときには、姿勢を低くし、マスクやハンカチで口や鼻を覆う。○できるだけ、下の階や建物の外に逃げる。一方で、してはならないこと。○逃げる時には、持ちものにこだわらず、急ぐ余り前の人を押したりしない。○一度逃げ出したら、絶対に戻らない。それらを、自分に言い聞かせながら訓練をすることが、とても大事です。
 火災避難のときにすべきことや、してはならないことを、今日のうちに再確認してください。その意識と準備が、自分の命や周りの人の命を救うことにつながります。
 4月17日の午後11時過ぎに、豊後水道を震源とするマグニチュード6.6の地震が発生し、愛南町で震度6弱、宇和島市で震度5強の揺れをそれぞれ観測しました。地震災害では、建物の損壊や家具等の転倒などによる被害だけでなく、地震による火災被害も大きくなる場合があります。私たち全員で今日の訓練を、防災の観点から普段の生活を見直し、火災を防ぎ、災害への備えを充実させるきっかけにしましょう。

令和6年度 入学式 式辞

2024年4月8日 19時23分

 4月8日(月)、午前中に新任式及び第1学期始業式を行い、午後から令和6年度入学式を挙行いたしました。新入生の皆さん、入学おめでとうございます。

 式辞
 暖かい春の季節を迎え、新緑の若葉がすくすくと伸びる今日のよき日に、同窓会会長・長野 貴様とPTA会長・菅野雅之様の御臨席を賜り、多くの保護者の皆様の御出席のもと、令和6年度愛媛県立松山西中等教育学校入学式をとり行うことができますことは、本校教職員一同の大きな喜びでございます。心からお礼申し上げます。
 ただ今、入学を許可いたしました160名の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。さきほど一人ひとり名前を呼ばれて立派な返事ができた皆さんは、今から愛媛県立松山西中等教育学校の第1学年の生徒です。皆さんを心から歓迎いたします。また、保護者の皆様、本日は誠におめでとうございます。真新しい制服姿のお子様をご覧になって感慨もひとしおのことと存じます。心からお祝い申し上げます。
 本校は昨年度、創立50周年を迎え、この4月から、さらなる50年後の創立百周年を目指して、皆さんと一緒に新たな歩みを始めます。そのように、松山西高等学校の歴史と伝統を受け継ぎつつ、中予地域の県立学校で唯一、中高一貫教育を行う輝かしい学校です。新入生の皆さんには本校で学べることを誇りに思うとともに、本校の生徒としてこれからの6年間、自分の力を精一杯発揮して充実した学校生活を送ってほしいと願っています。
 その学校生活の始まりに当たり、皆さんに、本校が大事に受け継いでいる校訓、すなわち本校で学ぶ生徒に実行してほしい大切なことについて話をします。
 校訓の一つ目は、「誠実」です。誠意を持って人と接し何事にも取り組む、ということです。自分を大事にしながら同様に他の人も大切にすることを通して、心の広い人になってほしいという願いが込められています。
 二つ目は、「自学」です。自分から学び、判断し、行動する力を身に付けるということです。どのような大人になりたいかを考えながら自分の人生をより豊かなものにしたいと願い、様々な困難を乗り越えようとするたくましさを持つ人になってほしいという願いが込められています。
 三つめは、「創造」です。人の優しさや強さの中にある美しさやすばらしさに気付き、自分や他の人にとっても喜びとなるものを創り出すということです。「生きていると、辛くて悲しいことはあるけれど楽しくてうれしいこともある」、と感じられるものを見付けたり創り出したりしてほしいという願いが込められています。
 これらの、校訓の中に込められている、生徒への願いを忘れないでください。これからの学校生活で、友達との関係で悩んだり、勉強へのやる気が起きなくて困ったり、楽しいと思えることがなくて辛かったりしたら、校訓に込められている願いを思い出してください。そして、校訓が示す「三つの大切な行い」に、ぜひチャレンジしてほしいのです。私は、皆さんが松山西中等教育学校の6年間で、人として一回りも二回りも大きな自分に成長されることを心から期待しています。
 ここで、保護者の皆様にもお伝えしたいことがございます。松山西中等教育学校は特色ある教育方針と教育内容によって、豊かな心と知性を身に付け、高い志を持って未来を拓く若者を育成する学校です。伝統の精神である「開拓者魂」と「師弟同行」のとおりに、私たち教職員一同は力を合わせて、知恵をしぼり工夫をこらしながらお子様の学びを支えて参ります。そして、お子様もこれから一歩一歩、自立への道を歩むことになります。心の優しい生きる力を持った若者に育つことは御家庭と学校の共通の願いです。子供たちの豊かな未来に向けて御一緒に力を注いで参りたいと存じます。ここにあらためて、本校の教育活動に対する御理解と御支援を賜りますようお願いを申し上げ、式辞といたします。

 令和6年4月8日
 愛媛県立松山西中等教育学校長 佐々木 進

第1学期始業式 式辞

2024年4月8日 19時02分

 4月8日(月)の朝、本校の体育館に新2年生から新6年生までの生徒たちと全教職員が集まり、令和6年度新任式と令和6年度第1学期始業式を行いました。新任式では、校長が24名の新任者を一人ひとり紹介し、阿部晋一教頭が新任者を代表して挨拶をされました。また、始業式では、元気な表情の生徒たちに、次のような話をいたしました。

 おはようございます。令和6年度の新学期が始まります。皆さんには、それぞれの学年に応じて、すべきことを自ら考え、挑戦し、それをやり遂げてもらいたいと思います。
 さて、第1学期始業式に当たり、皆さんに伝えたいことが二つあります。一つは、皆さんと出会って1年間が過ぎ、私は皆さんがいつも、しっかりと挨拶やお礼をしている様子に感心しているということと、その明るい声によって気持ちが前向きになり感謝しているということです。「おはようございます」「こんにちは」「さようなら」「ありがとうございます」などの言葉をかけているときの皆さんの気持ちは、必ず相手の心に届き、まるで魔法のように相手の気持ちを和らげ優しくします。「挨拶とお礼の声が響き合う松山西中等教育学校」で、これからもあり続けましょう。
 挨拶やお礼は、自分の意識を挨拶やお礼をしようとする相手に向けることから始まります。自分の意識を相手に向ける、すなわち「自分の思いを相手におくる」。「おくる」という言葉は「やる」という言葉に置き換えることができます。例えば、「出迎えのための人をおくる」という表現は、「出迎えのための人をやる」と言い換えることができます。皆さんに伝えたいことの二つ目は、その、「自分の思いを相手にやる」、すなわち「思いやり」についてです。
 人と会って話したり一緒に活動したりすること、つまり、人と直接関わり合うことは、うれしく楽しいことが多い半面、自分の思い通りにならずに我慢をしなくてはならなかったり、時には辛い思いをしたりすることもあります。しかし、人間は衣食住のどれをとっても、自分の力だけで解決できるものはなく、いろいろな人と関わり助け合いながら生活していかなくてはなりません。皆さんは、やがて本校を卒業し、実社会で活動する社会人として、境遇や仕事などが異なる多くの人と関わります。そのときにとても大事なことは、人の気持ちや置かれた状況などを気にかけ、人の身になって考え、心を配り、優しく接すること、つまり「思いやり」の気持ちを持ち、それを行動にあらわすことです。ですから、思いやりのある人はカッコよくて幸せな人なのです。
 今日の午後に入学式を行い、新入生を迎えます。どうか、思いやりの心を胸に、よき先輩として新入生を導いてください。明るいあいさつをはじめ、自らの輝きで周りの人を輝かせている皆さんを応援し、第1学期始業式の式辞とします。

松西中等の生徒の皆さんへ

2024年3月31日 14時01分

 生徒の皆さん、春休みをどのように過ごされていますか。エネルギーを十分に蓄え、4月からも輝く笑顔で楽しい毎日にしてください。そして、卒業生の皆さんも、新しいそれぞれの場所で充実した日々をお過ごしください。本校の校誌『久万の台』第48号の巻頭言に書いた「日常が人を救う」を載せ、全員にエールを送ります。

 新年の喜びが悲しみに変わりました。元日の16時10分に発生した「令和6年能登半島地震」によって、1月31日現在、死者238人、負傷者1288人、住家被害2万6541棟、避難所への避難者1万4659人という甚大な被害がもたらされました。命を落とされた方の冥福を祈り、被災された方々の気持ちを思いながら、災害や感染症、戦争等が続く不条理な世の中を生きる生徒たちに何を伝えなければならないかを考えています。
 ちょうど1年前、令和5年元日の朝日新聞に、ベラルーシのノーベル賞作家スベトラーナ・アレクシエービッチさんへのインタビュー記事が掲載されました。アレクシエービッチさんは、ウクライナ人の母とベラルーシ人の父のもとで生まれ、現在はドイツで事実上の亡命生活を送りながら、ロシア語で執筆活動を続けています。「本当にロシアが大好き」だった彼女は、ベラルーシの協力を得たロシアによるウクライナ侵攻を知った時に「涙がこぼれた」といいます。そして、この侵攻を、ロシア軍が占領した街で残虐な行為が繰り返された状況を踏まえ、「人間から獣がはい出しています」と表現し、作家として、「『本当に、言葉には意味があるのだろうか』と絶望する瞬間があります。それでも私たちの使命は変わりません」、「私たちは『人の中にできるだけ人の部分があるようにするため』に働くのです」と話しています。
 記事の終わり部分に、人はどうすれば絶望から救われるのか、という記者の問いに対して、次のように答えています。「近しい人を亡くした人、絶望の淵に立っている人のよりどころとなるのは、まさに日常そのものだけなのです。例えば、孫の頭をなでること。朝のコーヒーの一杯でもよいでしょう。そんな、何か人間らしいことによって、人は救われるのです。」アレクシエービッチさんは、人の中にある「人の部分」、すなわち人間性を信じ、人間を愛しているのだと思います。作家である彼女のよりどころとなる日常とは、常に社会や時代の犠牲となった「小さき人々」の声につぶさに耳を傾け、それを言葉にしていくことなのでしょう。
 日本の詩人・石原吉郎も、社会の片隅でひっそりと営まれる名もないありふれた生活がいかにかけがえのないものであるかを書いた一人です。石原は第2次世界大戦に従軍し、1945年に現在の中国・ハルビン市でソ連軍に「戦犯」として抑留され、冬は零下50度を下回ることもある極寒のシベリアへ送られ、重労働25年の最高刑を受けたが、1953年に特赦によって帰国した経歴をもちます。その彼の詩に、「世界がほろびる日に」という作品があります。

世界がほろびる日にかぜをひくな /ビールスに気をつけろ /ベランダに /ふとんを干しておけ /ガスの元栓を忘れるな /電気釜は /八時に仕掛けておけ

 8年間もの苛酷な状況下で精神的危機と肉体的な苦痛の中を生きた石原にとって、世界がほろびる瞬間まで守るものは普段通りの生活でした。彼もまた、アレクシエービッチさんと同様に、ありふれた日常だけが人を救い人間性を失わないよりどころとなる、と確信していたように思えます。
 能登半島地震によってそれまでの生活を奪われた方々の話が報道で伝えられ、胸が締め付けられる思いがします。その中で心を打たれた言葉がありました。ある鮮魚店は店舗の倒壊を免れたものの、周辺は2次避難が進み、住民が戻る時期も分かりません。それでも、「店をやめるつもりはさらさらない。やる気満々」。津波で多くの漁船が損傷し、市場も開く見通しは立ちません。それでも、「いつか年寄りが帰ってきたとき、魚屋でもなかったら寂しいやんか」。同じく建物は倒壊しなかったが水道と電気は止まったままの理髪店が、避難所で共に過ごす常連客の声にこたえ、営業を再開しました。バッテリーから給電するライト2個が手元を照らし、水とポットのお湯を避難所から持ち込んで、シャワーや蒸しタオルづくりに使います。「自分は床屋だから、はさみを持つことしかできないし、これで生活している」。また、被災したある地区で唯一のスーパーは、地震から一か月、発生直後から一日も休まずに店を開けています。「ゼロから少しずつ希望の光を見るような一か月だった。先行きは不透明だが、地域の人が集まれるオアシスになれば」。鮮魚店や理髪店、スーパーの店主や従業員には皆、震災前と変わらず仕事に丁寧に取り組み、自分の役目を果たしながら人の役にも立ちたいという誠実さがあります。
 卒業生の皆さん、ありふれた日々のさりげない小さな行いや言葉を、どうか大切にし続けてください。仏教の天台宗の開祖である最澄の教えの中に、「一隅を照らす」というものがあります。「一隅」とは、自分のいる場所、自分が置かれた場所のことをいいます。ですから、自分の居場所で自らが光り輝くことによって、その場を明るくすること、これが「一隅を照らす」という言葉の意味です。最澄は、国の宝とはお金や財宝ではなく、一隅を照らすことや、そのような人こそが貴い宝と説いています。皆さんがこれから、それぞれの場所でそれぞれの役割を精一杯果たしながら、自分らしい人生を歩まれること願っています。

家庭クラブ機関誌「銀杏」第36号 巻頭言

2024年3月27日 16時55分

 令和5年度の愛媛県立松山西中等教育学校家庭クラブ機関誌『銀杏』第36号を発行しました。巻頭言において、本校の家庭クラブ員の生徒たちに、「銀杏の樹に向けられた思いやり」と題したメッセージを送りました。

 11月中旬、家庭クラブ員の生徒たちが朝清掃をしている様子をうれしく眺めながら登校しました。生徒の皆さんは、正門から正面玄関にかけてそびえている銀杏の黄色く紅葉した落ち葉を集めてくれていました。その銀杏の樹にまつわる話を紹介します。
 本校第8代校長の松岡繁先生は、『創立30周年記念 久万の台 第28号』(2004年3月)に「思い出すこと」と題した文章を寄稿なされ、次のように書かれています。
 「銀杏や楠の落葉高木、常緑高木の新緑が校内を彩るのが印象深かったことを思い出しております。それは、生気みなぎる西高の姿であったのかもしれない。(中略)それらの木々の中でも、私は感銘を受けたある話柄がありました。それは銀杏の根元が高く盛り上がっているので、以前に勤務していた方に尋ねたところ、こういうことでありました。銀杏の生長が遅いので調べてみると、根元に水分が多くて育たない、そこで木を吊り上げて高くし、土を盛ったというものでした。私はこの話を聞くにつけても、草創期の方々の学校を思う心、生徒を思う心が、銀杏の木にも向けられた出来事として、心温まる思いがしたものでした。」
 その根元が盛り上がった樹々の周りで朝清掃をしている生徒の姿を見て、松岡先生が書かれた話を思い出しました。そして、学校や生徒への思いを銀杏の樹にも注いでくださった方々の心に、生徒たちが感謝の気持ちで応えているかのように感じました。
 家庭クラブの4つの基本精神である「創造」「勤労」「愛情」「奉仕」に共通するのは、家庭や学校から地域、社会へと広がっていく人とのつながりの中で、常に思いやりの心を持つということです。かつて、ある年の愛媛県ホームプロジェクトコンクールに提出された作品を一つひとつ見ていった経験があります。どの作品も豊かな発想力と地道な努力が成果となってあらわれたすばらしいものでした。中でも、家族の幸福を願う気持ちを動機としてテーマを設定し、研究をとおして家族の意識が変わり絆も深まったことを報告した作品や、地域の重要課題を自分の課題ととらえ、地域の人たちと連携しながら、高校生の視点で解決策を見いだしたいというエネルギーにあふれた作品などが、特に印象に残りました。
 私たちは皆、一人の生活者として食物や被服をはじめとした生活に必要な知識と技能を習得するとともに、生涯にわたってよりよい人間関係を創る実践力を身に付けていかなければなりません。そのために生徒の皆さんは、家庭科の授業や家庭クラブでの活動を通して、それらを学んでいるのです。
 結びに、機関誌「銀杏」第36号の編集をはじめ、多くの活動に熱心に取り組んでいる家庭クラブ員の皆さんに深く感謝するとともに、本校の家庭クラブ活動の一層の充実と発展を期待しています。

松山西PTA会報「にし」掲載文

2024年3月23日 11時05分

 令和6年3月1日に発行された松山西PTA会報「にし」に、「言葉を届ける」と題した文章を寄稿いたしました。

 保護者の皆様には、平素から本校の教育活動に御理解と御協力を賜り、厚くお礼申し上げます。今年で創立50周年を迎えた本校の歴史と伝統の中で育まれた、「開拓者魂」と「師弟同行」の精神が息づく教育活動に一層取り組んで参ります。
 さて、授業を受け持たない私は、式辞や学校行事でのあいさつなどの機会を、生徒に語りかけることのできる貴重な授業時間だと思い大切にしています。話す内容は式や行事に応じて異なるものの、繰り返し伝えていることの一つは、何かに取り組むときや人と向き合うときの、心の持ち方や取り組み方、言わば「姿勢」についてです。基礎・基本をいつも意識し、小さなことやさりげないことを大切にする。相手の状況や気持ちを思いやりながら言葉のキャッチボールに努める。そして、相手に投げかける言葉そのものを大事に選ぶ。生徒と教職員がともに、これらの姿勢を守り続ければ、本校のモットーである「Ever Shining」は実現すると信じています。
 特に、様々なことに取り組む中で味わう喜びや幸福感からだけでなく、悲しみや挫折感からも人としての豊かさを身に付けていく生徒にどのような言葉をかけるか。これまでずっとそれを気にかけてきました。そのような中で、以前に先輩教員から聞いた話を紹介いたします。
 ある年の愛媛新聞の「つぶやき」欄に、松山市のある母親からの投稿が載っていました。内容は、「県外で一人暮らしの娘が電話口で泣いた。『傷つくことばっかり』」これに対し母親は「傷つけられているのではない。磨かれているのよ。」と諭した、というものだったそうです。そして、その先輩教員は、こう話を続けられました。「自分は磨かれているのだと視点を変えるだけで、今していることが自分にとって、とても意味のあることに変わる。その時々の痛みを、自分を磨き鍛えてくれるものだと考えることこそ大切なのではないか」。投稿者のわが子への言葉かけと、先輩教員の言葉は、「自分を鍛える」という視点を持てば、自分の、人としての豊かさを増すことにつながると改めて教えてくれるものでした。
 宮沢賢治の童話『なめとこ山の熊』に、淡い月光に照らされながら母熊が子熊の思い込みや間違いを一つ一つ丁寧に説明しながら正していく場面があります。生き物は、食べたり食べられたりすなわち命を奪い奪われる中を生きるしかありません。子熊の甘えに調子を合わせたり機嫌をとったりしない母熊の凛とした姿からは、そのような世界に生きざるを得ない子熊に正しく強い生き方を教えておきたいという深い愛情が、切ないほどに伝わってきます。そして、教育もまた、そのような深い愛情と未来を見通した考え方を持って生徒一人一人に向き合うことから始まるのだ、と自分を戒めます。
 多様な未来が広がる生徒たちに、生きる「姿勢」の大事さを、これからも「授業時間」を通して語りかけます。



令和5年度前期課程修了証書授与式 式辞

2024年3月20日 10時06分

 3月19日(火)、第3学期終業式の後、体育館にて第3学年生徒の前期課程修了証書授与式を行い、次のような式辞を述べました。

 春の光が満ちあふれる季節となりました。本日、保護者の皆様をお迎えして令和5年度愛媛県立松山西中等教育学校前期課程修了証書授与式を挙行できますことは、この上ない喜びであります。
 保護者の皆様には、お子様が義務教育を修了され、たくましく成長されましたことに対しまして、心からお喜びを申し上げます。
 ただ今修了証書を授与いたしました159名の皆さん、前期課程の修了おめでとうございます。皆さんは本校の門をくぐって三年の月日の間、世界的に流行した新型コロナウイルス感染症の影響を受け、入学直後から授業や学校行事、部活動などの教育活動において様々な制約や制限を余儀なくされてきました。安全・安心のためとはいえ、我慢を強いられながら、戸惑いや不安、落胆や不満、心残りや寂しさを感じた人も多かったことでしょう。
 そのような中にあって皆さんは、困難な状況を受け止め、自らすべきことやできることに真面目に向き合い、やりがいや楽しみを積極的に見出しながら一生懸命に取り組まれました。教室や廊下での友達との何気ない語らい。些細なことに思い悩んだ日々。見聞を広めながら集団生活の在り方を学んだ研修旅行。グループで団結し連帯感を深めた運動会。クラス全員が心を一つにして歌い上げた合唱コンクール。厳しい練習を重ね、勝った喜びや負けた悔しさを仲間と共有した部活動。それらの一つ一つが、皆さんの成長にとって、かけがえのない心の糧となっています。
 皆さんは、四月から義務教育とは異なる制度のもとで、自分の興味・関心の多様化・具体化に合わせ、自らの進路等に応じて必要となる資質や能力を身に付けるための教育を受けることになります。そのため皆さんには、自分の力で立つという意味の「自立」の精神と、自分のことは自分で律するコントロールするという意味の「自律」の精神がそれぞれ求められます。節目となる本日、これからの3年間が充実したものとなるよう、本校が大切にしている校訓を改めて心に留めておいてほしいと思います。
 校訓の一つ目、「誠実」。誠意を持って、人と接し何事にも取り組むということ。自分を大事にしながら他の人も大切にすることを通して心の広い人になってください。
 二つ目、「自学」。自分から学び、判断し、行動する力を身に付けるということ。どのような大人になりたいかを考えながら、自ら人生を切り拓こうとするたくましさを持つ人になってください。今後は学習内容が高度になり、授業の密度もそれに応じて濃くなります。ですから授業はもとより、家庭での予習・復習などにも自ら進んで取り組みましょう。
 三つ目、「創造」。自分や他の人にとっても喜びとなるものを創り出すということ。失敗を恐れず挑戦し続けてください。蓄音機や白熱電球などの発明によって人々の生活を一変させ、「発明王」と呼ばれたトーマス・エジソンは、「私は失敗したことがない。ただ、一万とおりの、うまくいかない方法を見付けただけだ」という言葉を残しています。失敗は成功と等しい価値を持つのです。皆さんには、それぞれ自分にしかない個性があり、可能性を秘めています。本校の後期課程に進む人も、新天地に向かう人も、自らの個性を発揮し、可能性に勇気を持って挑戦してください。
 結びになりますが、保護者の皆様、お子様は義務教育とは異なる制度のもとで、自立した大人へと成長していくこととなります。心の優しい生きる力を持った社会人に育つことは、御家庭と学校の共通の願いです。ここにあらためて、本校の教育活動に対する御理解と御支援を賜りますようお願いを申し上げ式辞といたします。

令和6年3月19日
 愛媛県立松山西中等教育学校長
  佐々木 進

第3学期終業式 式辞

2024年3月20日 09時58分

 3月19日の朝、本校体育館にて、第3学期終業式を行い、全校生徒に次のようなエールを送りました。

 おはようございます。今年度もあと少しとなりました。皆さんにとってどのような1年間であったかを振り返ってみてください。
 さて、「反省」という言葉から何を思い浮かべますか。反省とは本来、自分の言動の良くなかった点や過ちを認め、それを改めるためにどうすればよかったのか、今後どうすべきかを考え、自分を変えることをいいます。自分の非を認め、自己嫌悪を感じたり正直に謝ったりするのはとても大事なことです。ただ、それだけでは反省として十分ではなく、自分の考え方や行動を変える努力をすることが本当の反省です。「反省を生かす」というのは、自分の生き方を変えるということなのです。もちろん、すべてを一度に変えるのは簡単なことではありません。私の場合、自分にとって優先順位が高く取り組みやすいことを選び、それを習慣になるまで繰り返しています。
 今年度の終わりに当たり、児童文学の古典的冒険小説ともいわれる『宝島』を書いた、イギリスの小説家・ロバート・スティーヴンソンについて話をします。『宝島』という小説は、現在の人気漫画『ONE PIECE』と比較されることも多く、皆さんの中には読んだことがある人もいるかもしれません。本校の図書館にも置いてありますので、ぜひ読んでみてください。おもしろくて物語の世界の中に引きずり込まれます。
 そのスティーヴンソンが、次のような言葉を残しました。「毎日を収穫によって判断してはならない。いかに種をまいたかによって判断しなさい。」私たちは何かに取り組みながら、目先の収穫すなわち目に見える結果を求める余り、結果が出ないと、やる気を失ったり途中であきらめたりすることがあります。そのような私たちに、スティーヴンソンの言葉は大切なことを教えてくれます。種をまかなければ、収穫は得られないこと。今は収穫がなくても、まいた種がいつか実って収穫を得られるかもしれないこと。だから一日一日を、その収穫ではなく、どれだけ種をまいたかで判断すべきであること。そして、「種をまく」という言葉を、「努力をする」という言葉に置き換えてみてください。すると、「毎日を収穫によって判断してはならない。いかに種をまいたかによって判断しなさい。」というスティーヴンソンの言葉が、わかりやすく胸の中に染みこんできます。
 これからも皆さん一人ひとりが、自分の夢に向かって心と体を動かし、一生懸命に種をまき続けることを期待して、令和5年度第3学期終業式のあいさつとします。