松山西PTA会報「にし」掲載文
2024年3月23日 11時05分 令和6年3月1日に発行された松山西PTA会報「にし」に、「言葉を届ける」と題した文章を寄稿いたしました。
保護者の皆様には、平素から本校の教育活動に御理解と御協力を賜り、厚くお礼申し上げます。今年で創立50周年を迎えた本校の歴史と伝統の中で育まれた、「開拓者魂」と「師弟同行」の精神が息づく教育活動に一層取り組んで参ります。
さて、授業を受け持たない私は、式辞や学校行事でのあいさつなどの機会を、生徒に語りかけることのできる貴重な授業時間だと思い大切にしています。話す内容は式や行事に応じて異なるものの、繰り返し伝えていることの一つは、何かに取り組むときや人と向き合うときの、心の持ち方や取り組み方、言わば「姿勢」についてです。基礎・基本をいつも意識し、小さなことやさりげないことを大切にする。相手の状況や気持ちを思いやりながら言葉のキャッチボールに努める。そして、相手に投げかける言葉そのものを大事に選ぶ。生徒と教職員がともに、これらの姿勢を守り続ければ、本校のモットーである「Ever Shining」は実現すると信じています。
特に、様々なことに取り組む中で味わう喜びや幸福感からだけでなく、悲しみや挫折感からも人としての豊かさを身に付けていく生徒にどのような言葉をかけるか。これまでずっとそれを気にかけてきました。そのような中で、以前に先輩教員から聞いた話を紹介いたします。
ある年の愛媛新聞の「つぶやき」欄に、松山市のある母親からの投稿が載っていました。内容は、「県外で一人暮らしの娘が電話口で泣いた。『傷つくことばっかり』」これに対し母親は「傷つけられているのではない。磨かれているのよ。」と諭した、というものだったそうです。そして、その先輩教員は、こう話を続けられました。「自分は磨かれているのだと視点を変えるだけで、今していることが自分にとって、とても意味のあることに変わる。その時々の痛みを、自分を磨き鍛えてくれるものだと考えることこそ大切なのではないか」。投稿者のわが子への言葉かけと、先輩教員の言葉は、「自分を鍛える」という視点を持てば、自分の、人としての豊かさを増すことにつながると改めて教えてくれるものでした。
宮沢賢治の童話『なめとこ山の熊』に、淡い月光に照らされながら母熊が子熊の思い込みや間違いを一つ一つ丁寧に説明しながら正していく場面があります。生き物は、食べたり食べられたりすなわち命を奪い奪われる中を生きるしかありません。子熊の甘えに調子を合わせたり機嫌をとったりしない母熊の凛とした姿からは、そのような世界に生きざるを得ない子熊に正しく強い生き方を教えておきたいという深い愛情が、切ないほどに伝わってきます。そして、教育もまた、そのような深い愛情と未来を見通した考え方を持って生徒一人一人に向き合うことから始まるのだ、と自分を戒めます。
多様な未来が広がる生徒たちに、生きる「姿勢」の大事さを、これからも「授業時間」を通して語りかけます。