生徒の皆さんへのエール(令和5年度「進路の手引き」巻頭言)
2023年8月9日 08時11分 生徒の皆さん、どのような夏休みを過ごしていますか。新型コロナウイルス感染症やインフルエンザ、熱中症などに十分注意して、健康で有意義な夏休みにしてください。
第1学期に令和5年度「進路の手引き」を皆さんに配布し、その巻頭言とてして、「『出会うこと』と『学ぶこと』」と題したメッセージを書きました。学校HPに載せ、皆さんにエールを送ります。
小学4年生だった私が、図画工作の授業で風景を描いていたときのことです。絵の具のチューブから青色をパレットに出し、それをそのまま下絵の空の部分に塗ろうとしました。すると、そばにおられた先生が私に、「空はその青色かなぁ。よく見てごらん。」と仰ったのです。改めて空を見上げると、絵の具の青色ではなく、くすんだ白や紫がかった青などが絶妙に溶け合い、グラデーションを成している様子が目の前に広がっていました。そのとき初めて、空を美しいと思いました。
また、高校1年生のときの英語の授業でのことです。responseという英単語が教科書に載っていて、先生は、単語の意味が「応答」とか「反応」であることを説明された後、もう一つの英単語を教えてくださいました。それは、responsibility、日本語では「責任」と訳される単語でした。そして、次のような話をなされました。responsibilityは、responseとabilityが組み合わさった単語であり、abilityとは「~ができる力」という意味をもつ。つまり、責任とは、「応答・反応できる力」のことをいう。だから、誰かから自分に何らかの働きかけがあった場合は、応答したり反応したりしなくてはならず、私たちにはその責任がある。私は、話を聴きながら、人間の在り方と言葉の成り立ちとが深く関わっていることに感動するとともに、あいさつを交わすことや人と誠実に向き合うことの大切さを再認識しました。
ここに紹介した話の他に、これまでの多くの経験を通して、私は二つのことを確信しています。一つ目は、人や物事との出会いによって人生は豊かになる、ということです。私の考え方や生き方は、図画工作や英語を教えてくださった先生をはじめ、これまで出会った多くの人と、その方たちに教えられた物事の影響を受けてきました。二つ目は、気付かなかったことに気付いたり知らなかったことを知ったりすること、すなわち「学ぶこと」は楽しいということです。頭の中の世界が広がり、心の中の知識や感情の引き出しが多くなれば、いろいろな年齢や立場の人とも話が通じ合い、相手の気持ちを想像して思いやりのある言動がとれるので、生活の中に喜びが増えます。今も学びたいことがいくつかあり、その一つは、京都大学で研究されている「不便益」についてです。「便利」が、手間がかからず、頭を使わなくても良いことだとすると、「不便」で良かった事や、不便でなくてはならないこと、すなわち「不便の益」を活用するシステムデザインを考案する学問に興味があります。
皆さんもまた、授業や学校行事、部活動など、さまざまな教育活動をとおして、「出会うこと」や「学ぶこと」の楽しさを経験していることでしょう。それらの中から特に自分が出合いたいことや学びたいことを見つけ、その希望をかなえるために何をすべきかを調べ知り、将来の夢を実現するために努力を続ける、それが「進路を考える」ということです。もし途中で、不安や焦りを感じたり、困難なことや落胆することが続いてくじけそうになったりしても、思うようにならない状況を改善しようと深く考え、時間と手間をかけるのは「不便の益」であり、自分を鍛え磨き夢に近づいていること、と自信をもってください。
そして、進路について迷ったり、疑問に思うことがあったりした場合には、この『進路の手引き』を手に取り、中でも「先輩からのアドバイス」を読み返しましょう。皆さんには、先輩方のように、悩み、苦労をしながらも、自らの出合いたいことや学びたいことへの思いを強くもち、一日一日、一歩一歩、前へ進んで欲しいと願っています。